家族信託

家族信託

最近よく話題になる信託とは、信託銀行などが営業として取り扱う商事信託と、営業を目的としない一般の方が取り扱う民事信託に分けることができます。

今回は民事信託の中でも皆様に身近な家族間で行う家族信託についてお話します。

家族信託は、①委託者(財産の所有者で財産を託す人)②受託者(託された財産の管理を行う人)③受益者(託された財産の権利を持つ人)から構成され、委託者と受託者の契約により受益者を定めます。

委託者は自分の財産を受託者に託し受託者名義に変更し、受託者は受益者のために財産を管理します。

受託者に託す財産を信託財産と呼び、不動産、株券、預金、現金など様々な資産を契約により信託財産とすることで、信託財産以外の委託者の財産と分離して管理されることになります。

信託財産は信託の終了により、信託契約で定めた帰属権利者へ財産が移転します。

信託は財産管理対策や遺産分割対策に有効です。

遺言で財産を息子や孫など一代限りに相続させるように指定できますが、信託であれば本人から子へ、子から孫へと財産を数字的に帰属させることも設計可能です。

委任契約でも財産管理することはできますが、本人の判断能力が欠けると不動産などの財産を処分することができません。

では具体的に信託でよく使われる4つのパターンについて概要を説明します。

以下の事例は簡易的な説明で、実際には税務や信託契約に関与すべき専門家などの記載を割愛しています。

認知症対策

最も多い相談が、高齢の両親が所有する財産の管理です。

親の元気なうちに子との間で信託契約し、財産の名義を子に変更することで、子が財産管理を行うことができます。

事例①

一軒家で一人暮らしをしている高齢の母が心配な長女からの相談です。

父は他界しており、母の子供は別居している長男と長女がいます。

母の財産は母名義の不動産と預貯金ですが、財布や預金通帳をどこに置いたか分からなくなったりするなど、母の物忘れが増えてきており認知症が心配です。

信託契約の提案

将来、母が認知症になってしまうと、母名義の自宅や預貯金を自由に処分することができなくなるリスクを説明しました。

近くに住んでいる長女は、母の様子を確かめに頻繁に訪問していることから、長女に母の介護や財産管理を行う意思があるか確認すると、その意思があったので長女に母の財産管理を託す家族信託を提案しました。

これにより、長女が信託財産の中から母名義の不動産の修繕や母の生活費を支払うことが可能となり、もし将来に母が施設で暮らすことになっても不動産を売却して費用を捻出することができます。

母が亡くなった後の信託財産は、長男と長女へ帰属することにしました。

ポイントと結果

母の判断能力が衰えると、成年後見制度の利用も考えられますが、成年後見人などの第三者が母の財産管理を行うようになり、家族が自由に母の財産を使うことはできませんし、後見人等に報酬を支払う必要もあります。

また、母が亡くなった後の信託財産の帰属権利者について、家族内で理解を得られないと相続人から遺留分を請求されるなどの紛争が起きる可能性もあるため、信託設計には家族の理解が必要です。

家族内で話し合った結果、母の生活は家族で支えるとの結論に至り、信託契約を結びました。

子がいない夫婦の財産承継

高齢の夫婦に子がいない場合に夫婦のどちらかが亡くなってしまうと、遺言で指定しない限りは夫婦の一方の兄弟や甥姪に相続が発生する可能性が高いです。

夫婦がお互いに遺言を作成すれば良いのですが、認知症になると遺言は作成できませんしもし夫婦のいずれか一方が遺言を残していても、その方が先に亡くなる可能性もあります。

信託では残された夫婦の一方が亡くなるまでの財産管理と、どちらも亡くなった後に財産を受け取れる者を指定することができます。

事例②

相談者(三男)は、夫婦で賃貸マンション兼自宅に住んでおり、三男名義の収益物件を管理しながらその収益で暮らしています。

三男夫婦に子はいませんが、三男の甥を子供の頃から我が子のように可愛がってきました。甥も夫婦のことを心配して頻繁に連絡を取っています。

三男の兄弟は次男が生存しています。妻にも妹が生存しており、三男は自分亡き後に妻に財産を相続させるつもりでしたが、妻が亡くなると妻の妹に財産の一部が渡ることを知りました。

妻亡き後は、三男の親族である甥に財産を全て譲りたいと考えています。

信託契約の提案

三男が遺言を残さず亡くなると、遺産は妻と兄弟(二男)と甥が相続します。

もし三男が判断能力を喪失すると成年後見制度の利用も考えられますが、今回のように財産が多いと親族を成年後見人に選任してもらうことは難しく、司法書士や弁護士などの専門家が選任される可能性が高く、妻の生活費などはどのくらい支出されるかは裁判所と成年後見人の協議となるため、柔軟な財産管理をすることが難しいです。

そこで三男の元気なうちに、甥が収益物件を管理することを提案しました。

具体的には収益物件とその維持管理費に必要な金銭を信託財産として、甥を受託者、当初の受益者が三男、三男の死亡後は妻が受益者となり、妻の死亡後は信託財産が甥に帰属する信託契約を提案しました。

ポイント

信託財産も修繕費などの維持管理費が必要なため、賃貸収益から夫婦の生活費を拠出した後の残余の額を信託財産の中で積立し、将来の修繕費に備えました。

三男が亡くなった後に、もし妻の判断能力が喪失しても、信託財産から妻の生活費は拠出されます。

身上監護については、生前に任意後見契約を締結することでも対応できますし、判断能力を喪失してから成年後見制度を利用することもできます。

今回の信託契約で、最終的に三男の親族の甥に財産が帰属することになり、信託財産以外の財産についても相続分を指定する遺言書を作成することになりました。

親亡き後の子供の財産管理

例えば子供に障害がある場合に、両親が高齢になり判断能力を喪失したり、いずれも亡くなってしまうと、その後の子の生活に不安を感じることは当然です。

両親が元気なうちに子供の成年後見人の選任申立の手続を行うこともできますが、両親以外の成年後見人が選任されると子供の財産を両親が管理することはできません。

このような不安を解消するためにも信託を活用することができます。

事例③

高齢の母と障害を持つ長男が同居しています。

長女は近隣に住んでおり、母と長男の生活をサポートしています。

最近、母が生活費の支払いを忘れたり、長男を施設へ連れて行く時間を間違えたりすることが増えてきており、先行きが不安です。

母親と相談すると、自分が亡くなった後の遺産は長男と長女に相続させたいが、長男の生活をどうするべきか困っていました。

信託契約の提案

母の財産を信託財産として、高齢の母と障害を持つ長男の身上監護を長女がサポートする信託契約を提案しました。

委託者は母で受託者は長女、当初の受益者は母と長男ですが、税務の関係上、長男が受ける利益は母の扶養の範囲内としています。

母死亡後の受益者は長男と長女が均等に利益を受け、長男死亡後は財産が長女へ帰属するようになります。

ポイント

母の財産を信託財産とすることで、長女が信託財産から母と長男の生活費を支払うことができます。

母が元気なうちは長男の身上監護を行うことができますが、もし施設などへ入所することになっても、信託財産から長男の生活費を拠出することが可能です。

母は財産を長男と長女に相続させたいと希望していることから、長男の生存中は信託財産から生活費や施設費を拠出し、長男が亡くなると信託財産は長女が相続するようにしました。

母の年金や長男の障害者年金は信託財産では無いため、それぞれの状況に応じて後見制度も利用することになりました。

事業承継対策

会社のオーナーなどに自社株式が集中している場合に、後継者についての問題があります。

今までの事例のように、オーナーの認知症対策や数次相続にも信託を活用することができますが、この事例では後継者が経験不足のため、オーナーの経営への関与が必要な場合を説明します。

事例④

中小企業の創業社長から、自分の株式を譲って長男を社長にしたいが、長男は経験不足で未だ育成中であり、一定の範囲の経営を任せるが全てを任せることはできないので何か良い方法はないかと相談がありました。

長男に株式の全てを譲り、自身は取締役として経営に参加することもできますが、重要事項は株主総会で決議するため、決議権を持つ株式をどうするか悩みどころです。

信託契約の提案

創業社長の父が所有する株式を信託財産として、長男が受託者で社長を受益者とします。

長男が受託者になると信託財産である株式の名義は長男名義になるため、株主総会で長男が決議を行えることになります。

しかしながら、父は全ての経営権を直ちに長男に渡すことなく、育成を継続しながら徐々に経営権を譲っていきたいと考えているため、委託者の父を指図権者とすることにしました。

指図権者を父とすることで、長男は父の指示に従い議決権を行使することになります。

ポイント

本来は受託者の判断で信託財産の管理処分を行いますが、指図権者を設定することで、受託者は指図権者の指図に従って信託財産の管理処分を行います。

株式を全て長男名義にすると、長男が決議権の全てを行使できますが、未熟な長男に適度な指示を与えながら育成を継続し、長男が成長した頃に合意により信託を終了させることも可能になります。

信託のまとめ

このように信託も様々な組合せができますが万能ではありません。

身上監護は信託で行うことはできないため後見制度との併用も考慮すべきですし、信託財産以外の財産も遺言書を作成して相続先を決めることも重要です。

また、全ての財産を信託財産としても遺留分侵害額請求の対象となるため、家族内で余計な紛争を起こさないためには家族の理解が必要です。

特に税務については受益者を誰にするかで贈与税の問題が発生することもあるので慎重に検討する必要があります。

本に書いてある信託契約書をそのまま使用するのではなく、ありとあらゆることを想定して自身の相続についても意識した信託契約を設計するためには、司法書士や弁護士、税理士などに必ず相談して信託契約を結んでください。

当事務所は民事信託士協会の民事信託士が信託設計を行います。

詳しくは当事務所にご相談ください。

家族信託の費用

家族信託サポート費用の例

認知症対策のため、母の不動産と預貯金を信託財産とする信託契約を設計し、不動産の登記手続も申請した場合。(不動産1,500万円、預貯金2,500万円)

※信託契約サポート報酬の最低額は33万円です。

信託契約費用に含まれている内訳は以下のとおりです。

※信託契約が成立しない場合でも着手金8万円は必要です

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